築100年の家屋が見てきた生活様式の変わりよう きっと舌をまいていることでしょう

住まい
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お客本位に建てられた家に住んでみて

私たち夫婦が住んでいる家屋は古く、多分100年近く経っていると思われます。
登記簿を見れば正確な年月は分かるのですが、大正8年ごろだったと記憶しています。

その間、戦火も何度か見てきたでしょう。

この家は祖父が「本家」から独立する際に建てたもので、
その様式はこの田舎ではごく普通の間取りとなっています。

つまり、冠婚葬祭が自宅でできるように造られているのです。
言い換えれば、いつ起こるか分からない「その日」のための設計なので、
お客さんを招き入れる座敷は広くて大きく、
ふすまを取っ払えば大宴会場にと変貌するのです。

そういった要素をもつ家こそが、社会的から一目置かれるという位置づけでした。
それゆえ、家族の日常生活にとっては必ずしも使い勝手がいいものではありませんでした。

この家の3代目として私たちが住むようになってから、
世間の生活様式が様変わりしてきたのは言を待ちません。

他人にあまり見られたくない台所が家屋の奥深くあったり、
トイレ(ご不浄と呼んでいた)や風呂が屋外の、しかも敷地の隅っこにあったりして・・・。

でも、世の中は便利できれいな要素を要求するように変わりました。

冠婚葬祭だって専門業者が現われたので、建て替える際には利便さを第一に考え、
その結果として個室を尊重するようになりました。

そんな中で我が家は大正初期時代のまま住み続けていますが、
さすがに「水回り」はすべて今風にやり替えました。

念願だったトイレの改修も下水道が設置されたので、最新式へと変えられたし、
風呂だって五右衛門風呂で釜の下から薪をくべたりする手間もなくなりました。

洗濯機が我が家にきてくれた~!

洗濯は女の仕事ではあったものの、それはほんの片手間としか認識されませんでいた。

育児だってそうです。
「子供は放っておいても育つもの」とみなされていたので、
手をかけなくてもよい「子守り」をこなししながら、
遊び仕事のように軽く見られた洗濯をたらいで行う行為は、女たちを忙しくさせました。
手はいつもカサカサ。

昭和30年代だったでしょうか、田舎にも洗濯機が普及し始めました。

当時、小学生だった私はその値段のほどは覚えていませんが、
とてもじゃないけれど大方の家では買える金銭の余裕などありません。
近所まわりのすべてがそうでした。

でも、欲しい気持ちが高ぶるので、その見返りとして逆の行動に出たのです。
そう、悪口を言ったのですね。

「大切な家族の衣類を機械にさせるなんて女の恥。1枚ずつ愛情を込めて洗うべきだ」
「機械にかけるとボタンが全部潰れるそうよ」とか。

でも、あちこちで洗濯機が納入されるようになっていきました。
電気屋さんがリヤカーで運び込むので、女たちはついて行って洗濯機を拝みにいきましたよ。

そして、とうとう我が家にも洗濯機サマのお成り~となったのです。

電気屋さんが設置場所を決めようとすると、祖父が言いましたね。
「床の間はどうじゃろうか?」。

でも給排水の都合で井戸の近くに置くことになりました。
祖父ががっかりしたのは、言うまでもありません。

「ほう、これが蛍光灯ちゅうもんかい」

どの家も白熱電灯を使っていました。
だから、窓から漏れてくる光は皆いっしょ。

なのに、1軒だけ、ほの青い光に変わったのですね。
そう、蛍光灯に替えたのです。

その家は玄関の戸を何夜か、開けっ放しにしてくれました。
通りから蛍光灯を心置きなくながめられるようにという配慮からです。

蛍光灯にすれば電気代が激減するという触れ込みでしたが、
それに替える経費がねぇ。

思案のしどころでしたよ。

テレビがきたぞ~、隣に

その頃の集落の戸数は約100軒。
でも、テレビを持っているのは、町会議員さんと土木会社の社長宅のみ。

ところが、隣にもテレビが来たのです。
隣りは教師の家。
「月給取りは羽振りがええんじゃなぁ」と、人々は感心しました。

さてそれからは、夕飯代わりのふかし芋を手にして隣家の座敷へ。
もう、何人も先客が押し合っていました。子供ばかりじゃなく大人も。

他人の家に当然のように上がり込んで、テレビを鑑賞するのです。
その家の主も迷惑がらずに余裕で微笑んでいます。

画面にザ~ッと雨が降ると、家主さんは鷹揚にテレビの前に進み出て、
どこやらを触って修復させ、笑って見せるのでした。

ほぼ100年、我が家の家屋は世の移り変わりをじ~っと見続けました。

さてこの家、私たち夫婦が亡くなれば息子が率先して壊し、
暮らしやすいものにやり替えるでしょう。

でもそれまでは、穏やかな日々をこの家とともに共有する積りです。

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